宇都出ブックセンター

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あなたはあなたの身体よりも大きな存在です
サンドラ ブレイクスリー,マシュー ブレイクスリー
インターシフト
¥ 2,310
(2009-04)

「身体の声を聴く」
「身体を大事にする」

病気の人はもちろんですが、身体が大事なことはかなり理解され始めてきていると思います。ただ、それは、「住んでいる家を大事にしよう」「部屋をきれいにしよう」というのと同じように、自分が所有している「身体」を大事にするという発想からきているのではないでしょうか? 身体を、「自分」という意識や心、それを生み出している脳の乗り物として位置づけていませんか?

しかし、実は「自分」という意識や心が生まれるために、身体というものが必要不可欠なのです。

身体は脳を入れて動き回るための単なる運搬具ではない。両者の関係は完璧なまでに互恵的だ。身体と脳はお互いのために存在している。(中略)そんな身体は感覚のレーゾン・デートル、存在理由だ。そして皮膚と身体から感じる感覚――触覚、温覚、痛覚など、本書で取り上げるほんの数種の感覚が、あなたの心の基盤となる。他の感覚はみな、相対的な利便性のために追加されたものに過ぎない。せんじ詰めて言えば、人間は視覚や聴覚が無くても、元気いっぱいに暮らしていける。(中略)意味は動作主性(行動し選択する能力)に根差し、動作主性は身体化によって左右される。実を言うと、これこそ、人工知能学会が数十年にわたってフラストレーションを味わった末に、苦労してようやく得た教訓である。真に知的なものは、身体のないメインフレームでは発達しようとしない。現実の世界には、肉体を持たない意識など存在しないのだ。

触覚、温覚、痛覚などが、視覚や聴覚よりも大事な基盤であるというのにも驚かれたかもしれません。ただ、私にはこのことが自分の実体験からもなんとなく納得できます。

たとえば、速読訓練でのブレイクスルー体験。

 
私は大学時代から数多くの速読教室に通ったり、速読教材で訓練してきました。そのベースは、視野拡大訓練や視点移動訓練という視覚訓練です。読書は視覚を使いますから当たり前でしょう。しかし、私が一気に速読スピードが上がり、理解力も高まるようになったのは、それまで本を見る感覚だったのが、本を触れる、なでる感覚に変わったときでした。それによって、目の動きが安定し、集中力も高まり、自分自身も速読能力が高まったことを実感できた体験でした。

これはあとで紹介する「ぺリパーソナル・スペース(身体近接空間)と呼ばれる、身体を取り巻く空間が拡張した、もしくは強まったともとらえられるものですが、身体や触覚などの重要さを感じた体験でした。

また、人の話を聴くという聴覚にかかわることでも同じような体験があります。人の話を聴く際に、その人の声に触れる、もしくはその人自身に触れるというような感覚になったときに、より相手の声や話の変化、相手の変化を感じられ、聴くレベルが高まるように思います。

だんだんと話が本書の内容からずれていますが、脱線ついでにもう少し。それは、「開く」ということ、身体を広げるということです。

上に紹介した速読のブレイクスルー体験の下地となったのは、目の奥から目を開けて、まばたきをせずに涙をダラダラと流しながら、見よう見ようという思いを強く持ちながら見続ける訓練でした。

よく見ようとするときに、目を細めるやり方もありますが、そうではなくて、目を開ける。それも目だけではなく、目の奥、さらにいえば、身体も心も全開するように開いていくのです。そうすることで、自分の身体が中から盛り上がって拡大するようなそんな感覚になったように思います。

これはよく聴こうとするときも同じです。よく聴こうとするときに、意識を一点に集中してまるでレーザー光線のようにすることで聞き漏らさないようにする聴き方もありますが、私は胸を開くというか、身体を開くというか、自分の身をさらすようにして聴きます。それによって、速読のときと同じように、自分の身体が中から盛り上がって拡大するようなそんな感覚になり、相手の声や相手に触れられるように思うのです。

なんとも怪しげな話になってきましたが、このように「開く」、そして「触れる」ということはさまざまな分野に共通する極意だと思っています。そして、それを説明してくれるのが、先ほど少し紹介した「ペリパーソナル・スペース(身体近接空間)」であり、本書を貫くコンセプトである「ボディ・マップ」です。

本書の「はじめに」での冒頭を紹介しましょう。読みながら、実際にあなたの身体を動かしてやってみてください。

立ち上がり、指先までピンと張って、両腕を前に伸ばそう。上下、左右に振ってみる。頭の上から大きく回して脇に下ろす。片足ずつ、できるだけ遠くまで蹴り出して、つま先で地面に半円を描く。ヘディングするか、唇や舌で何かに触れる感じで首をいっぱいに伸ばし、頭を回して前後左右に倒してみる。身体を取り巻く、腕が届く範囲のこの目に見えない空間体積を、神経科学者たちはペリパーソナル・スペース(身体近接空間)と呼んでいるが、これはあなたの一部である。

「これはあなたの一部である」。この表現は単なる比喩ではなく、脳生理学的な事実なのです。脳は、この空間を手足や胴体に追加してマッピングするのです。その空間もあなたの身体であり、あなたなのです。

自己は肉体の境界で完結するのではなく、他の生物をも含めた周囲の世界へもあふれ出し、融合する。つまり、自信満々で巧みに馬を乗りこなしているとき、あなたのボディ・マップは馬のそれと、共有する空間内で溶け合っているわけだ。愛を交わすとき、あなたのボディ・マップは愛する人のボディ・マップとお互いの情熱の中で渾然一体となっている。

さて、こう聞いてあなたの肉体の境界がグラグラ、もしくはユラユラと揺らぎはじめませんか? 先ほど紹介した私の速読体験、聴く体験も、「ペリパーソナル・スペース」が拡大した、もしくは強まったと考えれば、わかっていただけるのではないでしょうか? そして、あなた自身の日常生活を振り返ってみれば、自己が広がる体験をしていることに気づくはずです。

わかりやすいのが、道具を使うときに生み出される「ペリパーソナル・スペース」です。

たとえば、クルマ。

あなたが車を運転するときもパーソナル・スペースは広がって、フロント・フェンダーからリヤ・フェンダーまで、左のドアから右のドアまで、タイヤから屋根まで、車を丸ごと取り込んでしまう。だから運転中は、サンダル履きであるいているように道路の質感を感じ取れる。天井の低いガレージに車を入れようとすれば、車の屋根が自分の頭皮のように思えて、高さ制限ギリギリだと“感じる”ことができる。

もっと簡単なところでいえば、長い杖を持ったとき、さらには服を着たときでも、あなたのペリパーソナル・スペースが変化するのを感じるでしょう。これらはあまりにも当たり前なので、日常では意識しないかもしれませんが、われわれが道具を使いこなせるのも、脳がペリパーソナル・スペースをマッピングするからであり、それが、まるでオーラのようにまったく静止せず、拡大、伸縮自在だからです。

この「ペリパーソナル・スペース」、拡大、伸縮する身体を意識することで、あなたの日常の動作におそらく変化が出てくるはずです。たとえば、私の速読体験のように、本を読むときに、対象として離れた本を見ようとするのではなく、自分の身体を拡大して、本を自分のペリパーソナル・スペースに取り込み、そこで触れていく意識で読む。人の話を聴くことも同じです。何か道具を使うときも、自分がその道具を使おう、使いこなそうとするのではなく、自己の延長としてその道具を感じることから始めることができるでしょう。

コーチングの源流であり、スポーツ指導に革新をもたらしたティモシー・ガルウェイの「インナーゲーム」。これは、テニスやゴルフなどの指導の際に、「ひじを上げろ」とか「腰をもっと回して」といったアドバイスはしません。それよりも、自分の身体やテニスのラケットやゴルフクラブのヘッドがどの位置にあるかを意識し、自覚することを促します。これは、まさに、身体の「触覚」を意識したものであり、道具と自己を一体化させて、ペリパーソナル・スペースを拡大、強化するものといえるでしょう。その結果として、ラケットやクラブをまるで自分の身体の一部のように使いこなすことができるのです。

さらに、イチローなどの一流のバッターなども、おそらく視覚よりも触覚的な感覚を使っているのではないかと想像してしまいます。たとえば、イチローなどは、ボールを見るというより、ピッチャーのところまで拡大されたペリパーソナル・スペースの中を移動してくる、すなわち自己の身体に触れてくるボールを感じ、ボールのスピードやコースなどを知るのではないでしょうか?

また、気功など、目に見えないエネルギーの流れを感じるのも、ペリパーソナル・スペースの考えからすれば、別にあっても不思議はありません。ただ、それは、気功師からエネルギーが出ているということではないかもしれません。誰かに身体に触れられたら何かを感じるのと同じということであり、出し手のエネルギーというよりも、それを感じている人のペリパーソナル・スペースだったり、感じる力によるということです。一つの催眠というようにもとらえられる可能性もあります。

たとえば、「気を出します」と言われて、何かを感じる。それはペリパーソナル・スペースからすれば十分ありうることです。そして、感じたことからさらにそこの感覚が鋭敏になってさらに強く感じる。と同時に、自分で勝手に、気功師の気合や動作に合わせて、自分の感じる強さを変化させるようになる、とも考えられるわけです。

本書では、この「ペリパーソナル・スペース」「ボディ・マップ」という考えを核にして、われわれの日常生活で起こる出来事を解明していきます。いかに挙げたのは第2章以降の章のサブタイトルです。

第2章 あなたの男性のシンボルが自分で思うほど大きくないわけ
第3章 減量に成功しても太っていると思うわけ
第4章 メンタル・トレーニングが良く効くわけ
第5章 スポーツや音楽の達人がうまくいかなくなるわけ
第6章 博士が手を下ろしていられなかったわけ
第7章 オーラが見えたり、体外離脱したりするわけ
第8章 ビデオ・ゲームにはまるわけ
第9章 あくびがうつるわけ
第10章  痛みが気分次第で変わるわけ

上のタイトルからわかるように、本書はあなたの日常生活に役立つヒントが満載です。しかも、脳科学のとても深いところに突っ込んで解説してくれています。本書を書いているのは研究者ではなく、サイエンスライター、しかも親子です。なかなかのすぐれ本です。

本書は学問分野でいえば、「自己の神経科学(neuroscience of self)」といわれる新しい分野にかかわるものです。

私が学び、実践しているコーチングでは、「あなたは本当にどうしたいの?」といった問いかけなどで、自分自身を探求していきます。しかし、そもそも、自分とか自己とは何なのか? 本書でも書かれているようにそれは固定したものではなく、拡大、伸縮するものです。こういった「自己の神経科学」の研究成果を踏まえることで、コーチングもこれから変化するでしょう。

また、さまざまなスキルについても、ペリパーソナル・スペースのコントロールというようにとらえることで、新たな学習方法が生まれる可能性を感じます。

不況が続き、個々人レベルの自己啓発、勉強、スキルアップ、成長ブームが続いていますが、案外、本書のような全く違う視点に立つことで大きなブレイクスルーがあるかもしれません。

| 宇都出雅巳 | | 18:42 | comments(0) | trackbacks(0) |
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