宇都出ブックセンター

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経験からの学習を加速させるのは「顧客志向」
 このブログで紹介した『人材開発マネジメントブック』にお勧め書籍として紹介されていたので、読んでみました。

大学の先生が書かれた専門書ではありますが、とても読みやすく、示唆も具体的でよかったです。
タイトルにあるように「経験からの学習」の重要性とそのポイントを、これまでの先人の研究に加え、数多くのビジネス・プロフェッショナルへのアンケート、インタビュー調査から解き明かしています。

本書の基本的なメッセージは「人は、健全な組織において、適正な信念を育むときに、経験から多くのことを学ぶことができる」というもの。

「健全な組織とは?」「適正な信念とは?」とすぐに質問が出てくると思いますが、ここでまず注目してもらいたいのは「信念」というものにスポットライトを当てていること。

知識やスキルというものではなく、「信念」というものを重視しているのです。ここでは仕事に関する信念であり、たとえば、「お客様の要望にはすべて応えるべきである」といったものです。

信念は個人の行動や判断や評価を方向付け、新たな経験の解釈を導きます。つまり、どれだけ、どのように経験するのか? そして、どのように経験から学習するのかを左右するものです。

それでは、経験学習を効果的なものにする「適正な信念」とは何なのでしょうか? 

著者の調査によって浮かび上がってきたのは次の2つの信念です。


 顧客志向の信念と目標達成志向の信念です。

そして、もっとも経験学習の質を高めるのは、顧客志向の信念だったのです。

「すべてはお客様のために」といったスローガンや「顧客志向」という言葉はよく聞かれますが、実際にも効果があるものなのです。なぜ、顧客志向の信念が経験学習の質を高めるのでしょう? 著者は次のように解釈しています。
まず、顧客志向の信念が高い個人は、そうでない人に比べ、「顧客が抱える問題の解決」という観点から仕事をするため、取り組む課題の難易度が高まり、仕事の遂行を通して知識・スキルを獲得する量が増えると考えられる。また、顧客の立場に立って物事を考えるとき、担当者が感じる仕事の有意味性や内発的動機づけが高まり、学習が促進されると思われる。
とまあ難しい用語も出てきますが、顧客という存在によって、ストレッチ(いい意味での背伸び)が起こり、モチベーションも高まるわけですね。「世のため・人のため」というのは、単なる道徳や精神論ではなく、経験学習の質を高める実践的な方法論なのです。ただし、この顧客志向、業績に結びつくには時間がかかります。
ただし、気をつけなければならないことは、顧客志向の信念は、後になって業績に効いてくるという点にある。分析結果が示すように、顧客志向の信念が業績に結びつくには時間がかかり、顧客管理スキルは奥が深く、有効に働くまでには多くの経験をつまなければならない。この時間差を我慢して、辛抱強く顧客志向を持ち続けるように個人を応援することが、人材を育成する鍵となる。
ここで、もっと効率的にできないのか? 短時間で経験学習を行い、業績に結び付けられないのか? と考えてしまいますが、人間である以上、ある程度の時間がかかるのは仕方ないのでしょうね。

そもそも、本書が書かれた背景には、ナレッジマネジメントなどの知識共有によって人材育成のスピードを高めようという試みが、自ら学ぶ力を奪い、経験学習を阻害し、「自分の頭で考えなくなる」副作用などをもたらしているという「知識共有のジレンマ」という現実があります。

効率的に知識やスキル、さらには信念までも習得できるように、情報が整理・共有化されることで、メリットもある反面、デメリットもあるのです。

コーチングは、これまでの実務とは離れた形での研修やトレーニングに対して、より実務に近いところで、そこでの経験を加速させ、より深い学習を支援することで注目されている部分があると思います。「知識共有のジレンマ」を解消する方法、経験学習の効率化とも位置づけることができるでしょう。

本書では、「経験から学習する能力」として次の4つを挙げていますが、

 1:自分の能力に対する自信(楽観性、自尊心)
 2:学習機会を追い求める姿勢(好奇心)
 3:挑戦する姿勢(リスクテイキング)
 4:柔軟性(批判にオープン、フィードバックの活用)

コーチングを通じて、この4つの能力を高めることは可能であり、その意味でもコーチングは経験学習を支援する方法といえるでしょう。

ただ、経験するためにもある程度の知識、スキルは必要ですし、学習するためにも何らかのフレームがあることで学習に結びつくこともあります。なかなか、この按配は簡単ではありません。

実際、わたしはコーチングを学び、実践する立場であり、またコーチを養成するという仕事にもついていましたが、コーチというプロフェッショナルになるためにも、コーチングを受けて経験学習だけを行うのではなく、やはり、トレーニングという要素が深く入ってきています。より効率的に質の高いコーチを育成しようというと、そうなるのは自然の流れなのでしょう。

ちなみに、わたしがコーチングを学んだコーチ養成機関の名前はCoach Training Institute(CTI)。文字通り、コーチをトレーニングする機関です。この名前にも象徴されているように、なんとも微妙なバランスの上に成り立っているものなのです。

コーチ養成においても、トレーニングの要素が強くなりすぎると、ワークショップの中での体験に安住というか、そこで満足してしまい、実際の経験学習を阻害する要因にもなりかねないのを感じます。わたしなども、あれこれとコーチングに関しての情報発信をよかれとは思って行っていますが、はたしてそれが経験学習を阻害していないかどうかと言われると、なんとも答えようがありません。

本書の序章では、このあたりの微妙な按配を「永田農法」という農法を比喩に表現しようとしています。以下は本書で引用されている永田農法の創始者の言葉です。
私の農法が「スバルタ農法」「断食農法」と呼ばれるのは食物を甘やかさないからです。人間でもそうですが、満腹だとなまえものになります。植物もたっぷりの水と肥料を与えられて育つと、まず根っこが十分に働かなくなります。私の農法のものは白くてふわふわの細かい根っこが地上近くにびっしりできます…。これが美味しさの秘密なのです。ぎりぎりの成育環境で養分や水分を十分に吸収するために、植物が持つ、本来の生命力を取り戻したのです。
相手が持つ本来の力を呼び覚ますのはまさにコーチングが目指しているところですが、この「永田農法」から、コーチングやコーチ養成について学ぶべき点は多そうです。
ただし、「放任」や「しごき」が人を育てるわけではない。永田農法は、水や肥料を最低限の量に抑えるが、野菜をほったらかしているわけではなく、「手はかけなくとも、目は細かくかける」ことを重視している。つまり、野菜がどのように成長するかを理解した上で、きめ細かい管理をしているのである。企業の人材育成においても、人が成長するプロセスを理解した上で、個人が持つ潜在能力を引き出す環境を提供することが大切になる。
「放任」でもない、「しごき」でもない。「手はかけなくとも、目は細かくかける」

このあたりの具体論は、本書ではほとんど触れられていないように思います。まあ、これは私自身が経験から学習すべきものなのかもしれません。

最後に、本書で紹介されていたコンセプトで、「なるほど」と思ったものを一つ紹介しておきます。

それは、「ノウイング(Knowing)」

これは所有される「知識」ではなく、「知るという行為」であり、「現実世界と相互作用することを通して知識を創造すること」
知識は人から人へ、書物から人へと移転するのではない。人は他者の知識や書物の知識を「道具として」使用しながら、ノウイングによって新しい知識を作り出すのである。
「経験」や「学習」というとなんだか受身というか、創造とはかけ離れた印象を受けますが、この「ノウイング」でいうと、「経験」しながら「ノウイング」しているわけですし、「学習」も何かを学んでいるだけではなく「ノウイング」しているわけです。

どれもこれもノウイングであり、知識の創造だと考えると楽しくなるのは私だけでしょうか?

また、本を読んだり、人から知識や情報を得ることも、すべてはノウイングのためだと思えば、そのまま知識や情報が退蔵されることもなく、新たな道具を取り入れることで可能性が広がるようで、お勉強と行動が直につながっているような感覚になります。

本書を読んで知識を得ることで、経験学習が阻害されるというようなことは避けたいものです。どんどんと「ノウイング」しましょう!
| 宇都出雅巳 | コーチング | 22:47 | comments(0) | - |
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